2015.06.29人が育つ組織づくり 「フロー経営」  天外レポートより

人が育つ組織づくり [ 天外レポート No.89

こんにちは。
あっという間に6月が終わろうとしています。今年の半分が過ぎると思うとゾッとします。光陰矢の如しと言いますが、矢どころか鉄砲玉のような速さです。お正月に立てた一年の計がどれくらい実現できているか今のうちに再確認しておいた方がよさそうですね。

先日、天外伺朗さんが書かれているメルマガで「人が育つ組織づくり」の要諦が紹介されていました。天外さんは、元ソニーの上席常務を務めていた方で、CDやAIBOなどの開発で大活躍されました。今はソニー創業期の経営を体系化した「フロー経営」を提唱されていて、私も勉強会や書籍を通して学ばせていただいています。
この内容は企業経営だけでなく、子育てにも通ずる話なので、多くの人に読んでいただきたいと思います。

どうぞ。

~ここから転載~

天外レポート No.89(2015.06.24)

「 人が育つ組織づくり 」

『教えないから人が育つ・横田英毅のリーダー学』(講談社)という本を以前に書いた。一般には、人を育てるために一生懸命に教えようとするが、ネッツトヨタ南国では全く逆に「教えない」ということが、企業文化の一つになっている。

「教えないと、どうして人が育つのか?」
答えは簡単、「自分で考えるようになる」からだ。

まいにち餌を与えられている動物園の動物は、自分で餌を獲得する、という能力を失うので野生に戻しても生きてはいけない。

「教えない」という企業文化は、自分で知識やノウハウを獲得する「野生のバイタリティ」を身に着けてもらうための環境だ。

動物園の動物が野生では生きていけないように、「野生のバイタリティ」がない人はネッツトヨタ南国では落ちこぼれてしまう。それを防ぐのが、30-120時間を費やす入社面接だ。
多くの社員が面接し、「生きる力」を見極めるのだ。
有名大学を優秀な成績で卒業してきても、「生きる力」が弱ければネッツトヨタ南国には入れない。また、長時間の面接や実習を通じて、入社希望者も企業文化に触れ、自分に合っているかどうかを判断できる。

「教えない」という企業文化は、時間、エネルギー、コストを要する丁寧な入社選別に支えられている。

普通は、失敗をさせないように教えるのだが、「教えない」ということは、「失敗」の危険性と隣り合わせであり、「失敗を許す」という寛容さが必要だ。失敗を叱るということは、許していることにならない。「失敗を許す」ということは、「叱らない」という企業文化でもある。

以前、2006/2007年とリーグ優勝した日本ハムを率いたヒルマン監督は、ネッツトヨタ南国と同じく「叱らない。教えない。やらせない」というマネジメントスタイルを貫いたが、選手がエラーをしても「Nice Try!」と激励し、絶対に叱らなかった。エラーした選手も奮起して、次のプレーで頑張ろう、という気になる。チーム全体もますます燃えてくる。
 
普通は選手がエラーをすれば、「なにやってんだ!」と罵声が飛び、選手は委縮し、チームのムードが悪くなる。たった一つのエラーで、もうそのチームは勝てなくなる。皆は勝てなかったのはエラーのせいだと思うが、それは間違い。勝てなかったのは、監督の罵声のせいだ。

教えないで失敗を許していたら、お客さんが激怒する、というシーンも当然あり得るだろう。これは客商売では、とても怖いことだ。
ネッツトヨタ南国では、その場合でも担当者に尻拭いをまかせる。土下座をして謝っていたらもう一台売れた、というケースもあるようだ。

尻拭いがうまくいけば、その人は急激に成長する。失敗や尻拭いを体験させることが、人が育つ最大の方法論なのだ。ただしこれは、失敗が命や傷害に結び付く業種では適用できない。

ネッツトヨタ南国では、尻拭いにあまり上司は関与しない。それとは逆に、天外塾の塾生の会社の中には、ユーザークレームに必ず社長か前社長が対応するという企業文化もある。この場合にも「叱らない」というポリシーは徹底している。
ユーザークレームに対して、担当者を叱ってしまうと、会社の体質改善や人育てに大切なユーザークレームが上に上がって来なくなり、企業は破綻に向かうという。自分のミスを一言も叱らず、ひたすらユーザーに頭を下げる社長の姿を見れば社員は発奮し、大きく育つ。これも、人を育てる一つの方法論だ。

この場合には、社員はミスをしても何をしても、自分は受容されていると感じる。私はそれを「無条件の受容」と名付けた。これも、人を育てる重要なキーワードだ。

いまから90年以上昔の話だが、A.S.ニイルという人がイギリスに、今でいうフリースクールのような学校を設立した。すると、イギリス中から手におえない子供たちが続々と集まってきた。

嘘をつくし、盗みもする。乱暴で破壊行為をし、すぐに切れる。「小さな悪魔のようだった」とニイルは述懐している。その悪魔のような子が半年もすると、天使のような幸福な子に変容する。その秘密が「無条件の受容」だ。 
ニイルがとった方策は、一切の指導・叱責をせずに、子どもを盗癖や破壊癖まで含めて丸ごと受容するのだ。盗むたびに賞金を出したり、ニイル自身が子供と一緒に盗みに入ったり、学校の窓ガラスを割ったりといった、かなり極端な行為も行った。「無条件の受容」を受けると子どもが変容する、というのは深層心理学で裏付けられている。

ただし、「無条件の受容」は子どもの悪辣な行為に対して、嫌悪感を抱かぬほど意識のレベルが高くないとできないので、誰でもできるわけではない。

「失敗を許す」、「叱らない」というのも、「無条件の受容」ができていれば、むしろ当たり前の態度になる。

上記の書籍では、ネッツトヨタ南国の創業者、横田英毅さんが幼少期におじいちゃんから「無条件の受容」を受けており、それが特異なマネジメントに結実した、という推論を書いた。

上記のヒルマン監督のマネジメントの最後の項目「やらせない」というのは、上からの指示命令がなく自分の行動は自分で決めるという事だ。
野球なら練習を強制しないし、企業なら仕事は自分で見つける。上司はすべてを下に任せる度量が要求される。

これは「フロー経営」の中心課題であり、やはり経営者の意識レベルの高さが要求される。葛藤が強い経営者は、それを戦いのエネルギーに昇華して企業を引っ張ってきた。管理型のマネジメントなら、戦いのエネルギーで推進できるが、そのままでは、なかなか「フロー経営」には移行できない。
それは、葛藤が強いと「自分が先頭に立って戦っていないと精神が不安定になってしまう」からだ。

そういう経営者は、最初に「うちはぼんくらが多いからまかせてもうまくいかない」という反応を見せる。「まかせて失敗する」という不安を口にするのだ。ところが、瞑想などを通じて自分の内面を見ていくと、「まかせてうまくいったら大変だ」という不安があることに気づく。自分が関与しないでうまくいってしまうと、自分の存在意義にキズが付く、という不安だ。そこまで気付きが進むと「フロー経営」は間近だ。

「人が育つ」という意味では、自主性に任せる「フロー経営」は必須だ。

ネッツトヨタ南国の会議は多数決をしない。結論を出すことが会議の目的ではないのだ。すべての人が発言し、吟味し、すり合わせることによって人間として成長することを目的としている。ただし、成長が期待できるデイスカッションは、全員が装うことなくマインドがオープンになっていなければ効果がない。
 
マインドがオープンになっていれば、全員の意識は「問題解決」の方向に収束し、多数決をしなくても結論が一つにまとまることが多い。天外塾では、そういう議論の進め方をお伝えしている。

ネッツトヨタ南国の若い人たちと話していると、「職場の仲間に支えられた」という経験談が多い。仲間意識が強く、公私ともに濃い人間関係が築かれている。これも「人の成長」にとって、とても大切な要素だろう。

以上、社員が成長するための組織やマネジメントの要諦についてお話した。これらはすべて「フロー経営」の要素だし、「ホワイト企業への道」の一部だ。

成長を実感できた社員は幸せだし、そういう社員に満ちた企業は業績もいい。ここに書いたようなことを少しずつでも実行していけば、あなたの会社も「ホワイト企業」に近付くことも夢ではない。マネジメントの道は、果てしない希望に満ちている。

~転載、ここまで~

先日あるプロ野球の選手が、選手が伸びないのは監督やコーチの叱責や、彼らが上からの評価を優先しすぎて選手を信頼していないからだと断言していました。そういう環境だと誰もが無難なプレーしかしなくなるようです。
天外さんの書かれている内容と同じことが、他のチームでも起きているのですね。

「無条件の受容」はそう簡単にできることではないと思いますが、それを受けた人は、自らの内から湧き上がる内発的動機によって潜在能力が開花され、到底なし得なかったことが次々と達成できるようになると言います。
他者評価による外発的な動機では、ある程度までの能力しか発揮できないし、今までの常識的な結果しか得られないようです。

まるで子育てと同じですね。子どもを思うあまり、一日に何回ダメ出ししているでしょうか。数えてみたらゾッとすると思いますよ。

これからの時代に相応しい新しい経営手法の鍵になる「無条件の受容」を理解する経営者が増えると、企業の業績はみるみる上がるのでしょうね。

ぜひご参考になさってください。

いつもありがとうございます。

P.S
天外伺朗さんのフロー経営についてはこちらをご参照ください。
http://www.officejk.jp/

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